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活躍する日本農業法人協会の会員をご紹介します。

会員限定の情報紙「Fortis夏の特集号」から、活躍する日本農業法人協会の会員をご紹介します。

会員紹介 <第1弾>

野菜も人も育てるのではなく❝育つのを手助けする❞
農業の可能性を追求する鈴木貴博社長の挑戦

静岡県
        すずなり
株式会社 鈴生 / TEN Green Factory 株式会社

すずき    よしひろ
代表取締役 鈴木 貴博

古くから東海道の交通の要所であり、県下有数の製造品出荷額と、温室メロンや緑茶をはじめ県内有数の農業産出額を誇る静岡県磐田市。プロサッカーチームやプロラグビーチームの本拠地でもあり、「スポーツのまち」として知られるこの町で太陽光型植物工場を展開するのがTEN Green Factory(株)だ。

障がいを持った人が働きやすい農場は誰もが働きやすい農場

(株)鈴生のグループ会社 TEN Green Factory(株)は2018年に設立された(本社:静岡県磐田市)。10,000㎡のハウスでほうれんそう、ケール、パクチーなどの葉物野菜を栽培している。

▲太陽光で明るい植物工場。床には段差がない。

植物工場という言葉のイメージと裏腹に、ハウスの中は明るい太陽光で満ちている。LEDの光で栽培する閉鎖工場に比べ、太陽光を利用することで露地栽培に近い品質・単価での生産が可能になるという。

ハウスの中を歩いてまず気が付くのは、コンクリート張りの床に段差が全くないことだ。ほかにも、苗のベッド下部のパイプに衣服が引っかからないようゴムのカバーをかぶせるなどの細やかな工夫が見られる。

ハウスの入口に設置されたホワイトボードには、ブロックごとに定植日や収穫予定日などが書かれており、その日の作業内容が一目瞭然になっていた。

▲QRコード付きのレタス。
 栽培履歴と栽培動画が確認できる。

「ここでは約50人が働いており、そのうちの2割程度が障がい者。高齢者や女性も働いている。段差で躓いたり、出っ張りに引っかかったりしないように環境を整え、力作業もできるだけ減らして工程もシンプルにすることで誰もが働きやすい環境になる」と鈴木社長は語る。

収穫した野菜は外気に触れることなく、施設内で調整、袋詰めされる。袋にはQRコードが記載されていて、読み取ると栽培履歴や栽培動画を見ることができる。トレーサビリティと安全・安心のPRを両立する取り組みだ

❝バイタリティと発想力の人❞

▲バイタリティと発想力で多くのグループ会社を経営する鈴木社長

(株)鈴生は、レタスと枝豆を生産する農業法人として2008年に発足し、現在の売上高は10億円を超える。また、2014年にグループ会社としてハンバーガーチェーンのモスバーガーを展開する(株)モスフードサービスとの合弁会社(株)モスファームすずなりを設立したのを皮切りに、中日本ファームすずなり(株)、(株)鈴生おおいがわ、TEN Green Factory(株)を誕生させたほか、同年には運送会社STMエクスプレス(株)を、2021年には就労継続支援A型B型事業所「すずなりカレッジ磐田校」を設立している。他業種を巻き込んだ事業展開の背景には、部下から「バイタリティと発想力の人」と評される鈴木社長の姿がある。

農業の可能性は無限大

「農業は可能性が無限大。いろいろな新しいことにチャレンジできる。こんな楽しい職業はないと思う」と笑う鈴木社長。毎日昼夜かまわず「多くの他業種の方と交流し、情報交換を行っている」という鈴木社長のバイタリティの源は、この“好き”という気持ちだという。

そして、社長の発想を実現化していくのがスタッフたちだ。事業を立ち上げた後は部下に任せて、社長はほとんど口を出さないという。「働くうえで、楽しいと感じるのは難しいかもしれないけど、やりがいを感じてもらうことはできる」。裁量を与えることでやりがいを感じさせ、モチベーションを高く保つ。さらに、投資と投資の間隔を数年開けることで、次の事業展開に向けた人材育成を行うのだという。

❝育てる❞のではなく❝育つのを手助けする❞

飛ぶ鳥を落とす勢いで事業を拡大してきた鈴生グループ。しかし、創業当初は思うような品質の野菜が作れず、収量も上がらず悩む日々だったという。「当時は“人よりいいものを作りたい”という自分の欲を野菜にぶつけていた」と鈴木社長。それが変わったのが、ある篤農家の言葉だ。「野菜にはもともと育とうとする力がある。農家にできるのは野菜が育つ手助けをすることだけ」。その言葉をきっかけに、当時3,000万円だった売り上げは一気に倍になった。

この「育てるのではなく育つのを手助けする」という考え方は作物の生産のみならず従業員育成にも生かされている。従業員の可能性を信じ、環境を整えて仕事を任せ、手や口は極力出さずに信頼して見守ることで、新事業への挑戦を支えるスタッフを育ててきた。

日本農業法人協会への期待

日本農業法人協会が主催する「次世代農業サミット」では、2018年の第4回から現在まで実行委員長を務めてきた鈴木社長。農業法人協会に参加してよかったことを聞くと、意外な答えが返ってきた。

「例えば何か農水省などに聞きたい時、窓口がわからないことがある。その時に法人協会に問い合わせるとすぐに教えてもらえるからありがたい」とのこと。「自分はそうやって気軽に電話できるけど、ほかの会員にとって日本農業法人協会は少しとっつきにくい雰囲気がある。会員が身近に感じられるようになればもっといい組織になる」と協会への期待を語った。

取材中、「これはオフレコね」と言いながら画期的な新事業の構想を次々と語ってくれた鈴木社長。既存の枠組みにとらわれないアイデアを数々実現してきた鈴生グループの今後の取り組みから目が離せない。

更新日:2022年7月7日

※この記事に関するお問い合わせは日本農業法人協会まで