新着情報

活躍する日本農業法人協会の会員をご紹介します

会員限定の情報紙「Fortis秋の特集号」から、活躍する日本農業法人協会の会員をご紹介します。
会員紹介 <第3弾>

“外国人材を活かして経営の多角化を目指す”
~伝統のモノづくりを継承し、新たな可能性に挑む上室社長~

鹿児島県
 有限会社 上室製茶

代表取締役 上室 和久 

 

鹿児島県大隅地方の東部に位置する志布志市有明は、澄んだ空気、霧島山系由来の清らかな水、水はけのよいシラス土壌、更には朝晩の寒暖差といったお茶の生育条件に適した県内でも有数の茶産地である。

この有明の地で、伝統のモノづくりを継承しながら、外国人材を活かして経営の多角化を目指しているのが(有)上室製茶である。

同社は創業70年続く老舗の茶園である。2019年秋より外国人材の受入を始め、2020年秋には冬場の雇用機会を創出するため新たに施設栽培を導入した。今回、三代目となる代表取締役の上室和久社長に今後の農業経営・外国人材の活用などについて話を伺った。

担い手としての使命感が育む姿勢

幼少時に両親の働く姿をみて、家業を継ぐことを自覚していた上室社長。地元の中学を卒業後、機械設備等のメンテナンス技術を学ぶため工業高校へ進学。その後、県内の農業大学校、静岡の先進農家で2年間の研修を経て、22歳で就農した。趣味はドライブで、休日は子供達のクラブ遠征に帯同しサポートしている。車に関する知識も豊富で、話は尽きない。

そんな上室社長だが、仕事の上では「モノづくりはマニュアル通りにはいかないので、常に観察し、よく考え、気付くことが大事」と考えているという。

▲整列された倉庫の中

同社は日頃から仕事がしやすい環境づくりを心掛けており、敷地内の倉庫を覗いてみても、トラック等の車両、草刈機や作業服等使用する道具は、気持ちよいほどきちんと整列・収納されている。

就農当時は遅霜対策を誤り、圃場1枚を全部ダメにした辛い経験もある。従業員には「失敗しても何事にも諦めないで挑戦してほしい」と伝えているという。

これらから上室社長の仕事に対する姿勢(心構え)が伺える。

モノづくりを軸に拡がる新たな可能性

▲碾茶工場

創業時の所有面積は農地5haと工場1棟であったが、1997年の法人化に伴って徐々に借地が増え、現在は農地33haと工場2棟、連棟型ハウス25aまで規模拡大した。そこではお茶、大麦若葉、ピーマンを栽培している。それらの販売先については、お茶は問屋が7割で、残りは市場、清涼飲料メーカーへの原料販売。大麦若葉は食品メーカー、ピーマンは同市内の先輩経営者へ卸している。トータルで売上は年間約2億円だ。

大きな転換点となったのは、2014年の碾茶事業の導入と2019年の外国人技能実習生の受入である。

当時、同社では有機栽培に力を入れていた。その折に始めたのが、有機栽培による碾茶事業だった。県内での前例は少なく、初期投資も大きかったが、ニーズと、それに取組める技術があると考え、新事業に踏み込む決断をした。

試行錯誤の連続だったが、現在では海外向けの販売が好調であり、同社の売上を支える事業にまで成長した。最近では同社に倣って、有機栽培に転換する茶農家も増えているという。

※碾茶  抹茶の原料となる、覆下栽培した茶葉を揉まずに乾燥した茶葉。

外国人材を活かす取組

また同社は、将来的な人手不足を懸念する中で、2019年秋にベトナム人の技能実習生3名を受入れた。2022年度は4名の技能実習生が所属している。受入初年度の冬場の作業確保に苦慮したことから、2020年秋に新しく施設栽培を導入した。この年は、コロナ禍の影響とお茶の在庫余りが重なり、これまでにない経営難に陥った頃だった。ここで踏み止まれたのは、碾茶事業の存在だったという。

今季の施設栽培は、技能実習生の栽培技術が向上したこともあり、増収見込みとのことだ。技能実習生は細やかな気配り、心配りがあり、社内の雰囲気を明るくする存在。最近では、作物の生育の異変に気付き、自分達で工夫してすぐに対処するようになったと上室社長は感心する。

今後の経営について、上室社長は「有機茶を主軸に、一定の栽培技術を身に付けながら新規作物の充実を図っていく」と話す。

経営者達との交流の懸け橋に期待

▲(有)上室製茶の皆さん

日本農業法人協会が開催するイベントには、先駆的な考え方を持つ経営者との交流や、様々なタイプの経営者の意見を聞くことができる大きなメリットがあるという。特に、「次世代農業サミット」は、若手・中堅の経営者にとって色々なヒントが詰まっており、多くの刺激を受ける大変良い機会と上室社長は感じている。外国人材の受入も、そういう交流の場で知ることができた。

当協会には今後、従業員が、経営者と同じような感覚を身に付けられる「社員教育の場」の提供を期待している。

志布志の地は、南九州における「食料供給基地」として、個々の農家が自己の技術を確立し、切磋琢磨しながら、みんなで地域を支え発展しようという意識が根付いているという。持続可能な農業を継続し、次世代へつなぐため、「日頃から色々なリスク対策を考え行動する」というこだわりを持つ上室社長は、地域農業の未来を拓く担い手として、なくてはならない存在となっている。

 

更新日:2022年11月10日

※この記事に関するお問い合わせは日本農業法人協会まで